News & Column

2024.2.28

関通が実践する物流効率化と現場改善 ~非ロボットの仕組みで1人1時間に2000ピース仕分けも~


2024年問題によってトラックドライバーの人手不足が注目される中、物流センターの人手不足も大きな問題になっている。今回、私たちタクテック(代表取締役社長 山崎 整/東京都文京区)のソリューションの導入先である株式会社関通様(代表取締役 達城久裕/兵庫県尼崎市 以下関通)の関西主管センターへの取材を行った。同社がマテハン導入や改善のしくみを通して省人化や高い生産性を実現している取り組みについてご紹介する。

現在、トータルピッキング後の仕分け工程には様々な種類のソータの導入が進んでいる中、同社では人間系のしくみであるGASを使って最大で1人2000ピース以上/hの仕分けを実現している。これは弊社導入先の中でも高い生産性を実現している数字であり、そこに至るまでの様々な工夫や考え方を中心に、株式会社関通 営業本部 営業第二部 部長の寺西 直哉氏、営業本部 web戦略部 チーフwebコンサルタントの川田 摩弥氏からお話を伺った。

【こだわり品質方針とGAS(ガス:Gate Assort System)導入】
同社の現場運用に対する考えについて、「1オーダーごとにピッキングを行うシングルオーダーピッキングなら1人で1件を完結できるし、ピッキングした人が梱包して送り状を貼って出荷するのが、品質的に一番問題がないと考えていました。」と寺西氏。『日本一お客様満足度の高い物流会社』をビジョンとしている同社は、モノに触れる回数が増えれば増えるほどリスクにつながるため、物流センターの中の作業工程をなるべく減らすという考えを基本している。

「しかし、当時入社した社員が出荷量の増え続けるアパレルの現場を見た時に『トータルピックしてGASで仕分けを行う方が早いのでは?』という意見があり、実際に現場に導入してみると生産性が2倍になりました。しかも、GASは別のゲートをわざと開けたりしなければ間違いようがないため以前より品質も向上し、他のセンターでもGASを展開することになりました。」と弊社として大変うれしいお話をいただく。品質に関する基本方針である作業工程を最小限にするという同社の考え方の一方、GASはシングルオーダーピッキングでは発生しない「仕分け」の工程が発生してしまう。しかしGASは「検品」を兼ねて「仕分け」を行うことが出来るため、シングルオーダーピッキングで発生する「検品」工程を無くすことが出来る。そのため、作業工程を増やさずに導入出来ることも同社がGASの導入を決めた要因となった。

【女性向けアパレルのお客様事例】
今回取材させていただいた関西主管センターの中核となっている業務は、女性向けの下着の通販向けと店舗向けの出荷業務である。「もともと200坪でスタートしたお客様でしたが、今では1500坪で出荷業務を行っています。はじめはシングルオーダーピッキングで問題なく業務を行っていました。しかし、出荷量の増加に伴いスペースが広がり人数も増えていき40名で生産性は1時間で1人12~13件。出荷量が増加しても人海戦術でしか対応できず、限界が来ていました。」

この状況を受けて他のセンターで成果が出ていたGAS導入の運びとなったようだ。「生産性も1時間で31~32件(MH)と倍以上に上がり、月に10万件の出荷が可能になりました。月曜日~金曜日の9~18時で時間ギリギリまで行なっていた出荷作業が、現在早い時には15時で作業が終了するほど業務が改善されました。」
【現場改善とGASの生産性】
しかし、導入当初から現在の生産性が出ていたわけではなく、そこに至るまでには現場運用の様々な工夫があった。「GASはもともと24間口の2棚を対面に設置し、48間口を1ユニット(作業者1人分)として、2ユニットでスタートしました。しかし、さらに出荷量を増やさなくてはならない状況になった時に、他のセンターでGASの間口を減らした方が生産性が上がった事例があったため、24間口4ユニットに変更したことで現在の生産性まで向上しました。」実際に導入してから数字を見ながら効率を考えて改善していくことが大切と考えているそうだ。

生産性向上の秘訣はレイアウトの変更や仕分け方法の改善だけではない。現場のホワイトボードを見てみると『GAS仕分け階級表』があり、生産性ごとのランク付けと現場スタッフの写真と名前が貼ってあった。「こうした表があると作業者同士が切磋琢磨して、モチベーション高くがんばってくれていて、1時間に2000ピース以上仕分ける方も多いです。」実際に表を見てみると、初心者の方でも1200ピース、1600~1800ピースがボリュームゾーンで平均でも1時間に1600ピースを超える生産性。昨今の自動化機器と比べても非常に高い生産性である。一方、実際に作業されている方たちが頑張りすぎて大変ではないかと様子を見てみると元気にやってくださっているのを見て胸をなでおろした。
【ボトルネックが梱包になりPaLSを導入】
GASの間口には段ボールがセットされ、仕分けが完了すると後ろから取り出して梱包を行います。以前はGASの後ろに1ユニットにつき2人、4ユニットで合計8人で梱包作業を行っていましたが、GASの仕分け作業と段ボールの梱包作業が競争になり、GASの生産性がさらに向上すると梱包作業が完全にボトルネックになってしまいました。」

「そこでPaLS(Packing and Labeling System)を導入しました。1時間に720箱の生産性でランダムサイズに対応した封函と送り状貼り付けを行えることで、8人で梱包していた作業が、GAS仕分け後の段ボールをコンベアに乗せる2名に省人化し、送り状の貼り間違えも一切なくなりました。」GASを導入することでピッキングから仕分けの工程の生産性が向上すると、下流の工程である梱包工程にボトルネックが移るお客様が多く、そのお客様の声を聞いてPaLS(ランダム封函+送り状貼り付け機)を開発することになったが、今回も同様の同じような流れでの導入であった。
【現場からの課題の声が大切】
同社の強みはこうした現場運用やマテハン導入だけではない。『生産性向上に関する点検』を毎月実施しており、ボトムアップで現場を改善していくしくみがある。「とにかく課題の声をたくさん出してもらうことが大切。現場でこういう作業がやりにくい。新たな作業依頼があったが、課金対象になっていない。こうした現場での困りごとを管理者が聞き、一緒に考え、他の現場での成功事例を共有し、課題を解決していきます。」この点検を毎月行うことで現場は常に改善され、全社的に運用ノウハウが蓄積されていくしくみになっているそうだ。達城社長自ら現場に行ってこの点検を行うことも少なくないそうで、現場改善の取り組みとして、この点検の重要性がうかがえた。また、現場改善という目的だけでなく、現場で作業している方たちが意見を言える環境を作り、それが現場に反映されるしくみの中で現場のみなさん全員が主体性を持って取り組むことが出来ているようだ。

【チェックリストが教育ツールに】
現場改善の仕組みは『生産性向上に関する点検』だけではなく、独自開発システムの『アニー』も重要なツールとなっている。「もともとはクラウド型のチェックリストとして使っていましたが、使っていくうちに教育ツールとして使用できることが分かってきました。『いまから僕がやる作業を見てメモしてください』と言って教えるのではなく、新人の方がチェックリストを見ながらそのまま作業をやってもらう。もし出来ないところがある場合は、チェックリストの問題であり、ほとんどがベテランの視点で考えた言葉で書いてあることが原因。それを新人が見て分かるようにブラッシュアップして作り変えることで、さらにその下の子もわかるようになります。」こうしてもともとチェックリストだった『アニー』は業務の引継ぎや新人を即戦力化できるツールとしても活用できるようになったそうだ。(このノウハウを詰め込んだ新人即戦力パッケージを販売しているそうです。詳しくはコチラ。)

【物流のプロが作ったWMS】
同社のもう一つの柱としてITソリューションがある。その中核となっているのがWMS『クラウドトーマス』。システム設計をする際にいくらヒアリングをしていても、現場のことが分からない人が作ったシステムはいまいち使いにくいという話をよく耳にする。しかし、このトーマスについて「物流のプロが作ったWMS」と寺西氏は胸を張る。「いまは5代目で、現場改善と同様、倉庫の管理者・作業者から意見を吸い上げて、改善に改善を重ねた結果が現在の『クラウドトーマス』です。この『クラウドトーマス』の強みは現場視点での使いやすさだけでなく、導入のしやすさも大きなポイントで、一般的な通販業務を行っている企業であれば、設定レベルで対応出来るため、最短2週間で導入したこともあります。」

【トーマスで見える化して改善】
同社は毎年130社以上が訪れる倉庫見学会が有名だ。今回取材をした関西主管センターにも多くのお客様が訪れており、実際に現場を見た上で、現場と同じようにマテハンを導入したいというお客様の声が多くあるようだ。そんな時は、まずファーストステップとして『クラウドトーマス』を導入して物流の数値化・見える化を勧めているそうだ。

「一番簡単に導入出来るのが『クラウドトーマス』。導入してしばらく使っていただく中で、1時間に何件対応出来るのかが見えてきます。見える化することで現場の改善ポイントが見えてくる。改善してそれでも生産性が足りないということが分かって初めて、マテハンを入れましょうという話をしています。一気にやるのではなく、こういう課題がある場合、関通の現場ではGASを入れて効果が大きかった、また別の課題では自動梱包機を入れた方が成果が出たなど、現場の実体験をもとにお客様にアドバイスをさせていただきながらお客様のパートナーとして現場改善を行っています。」

【2024年問題や波動対応について】
2024年問題という社会課題に対して、同社として大切にしていることが2つあるという。1つは庫内の生産性の向上。WMS・GAS・自動梱包機・AGVなど様々なシステムの導入や現場改善を通じて生産性を上げること。もう一つは事務作業時間の削減。「物流業務にどれだけ時間を確保できるかが重要」と寺西氏。「朝社員が出勤してきたら送り状が自動で発行されているしくみや、バラバラに入ってくるメールやFAXなどでくる注文を一元化するOMS(Order management system)の導入に向けて取り組んでいるところです。通販で注文したものがOMSに集約され、それが指示データとしてWMSに連携される。この受注処理の自動化を進めることで、物流作業に充てられる時間を伸ばしていくことが大切だと考えています。」同社は、現場の庫内の生産性向上と上流である事務処理の自動化の両方を推し進めていく中で、様々な社会の変化に対応出来る体制を作っているそうだ。
【関通の強み】
同社は倉庫業から始まり、現在は物流ソリューションを提供する会社となっている。この事業展開の中で3PLとITソリューションの2つの軸がある。3PL事業を通じて現場改善や現場運用のノウハウが各拠点から集約され、その集合知がITソリューションとして結実しており、この二つの事業がまさに車の両輪として同社の事業を加速させている。

【終わりに】
「まずは現場を見てもらった上で、ここだったら安心して任せられる。こんな現場を作りたいなと思ってもらえることが大切」と寺西氏の言葉どおり、現場での実績に裏打ちされた課題解決策には一つ一つ説得力があった。

今回の取材を通して、これからも現場起点の物流ソリューション企業としての関通様の事業拡大を少しでも支えていきたいと感じた。